Abstract:
本稿は、「国語教科書に見られる戦争記憶の伝達・形成」という視点から、トルコの中学校における国語教科書を通して伝達・形成されている戦争の記憶について考察した。調査した教科書に収録された作品が対象とした主たる戦争は祖国解放戦争であり、今のトルコにとって戦争とは祖国解放戦争を表していることが伺える構図になっている。戦争関連の作品には、主に銃後の暮らし、戦争が国民に及ぼす影響、国民の勝利への貢献などが描かれていた。また、祖国解放戦争の指導者であるアタトゥルクの戦争に関する思い出や考えがあわせて描かれていた。トルコでは、戦争記憶は戦争の規模や犠牲者数ではなく、祖国解放戦争とそれによって得られた国の独立が重視されている。また、中学校の国語教科書8タイトルにアタトゥルクに関連する作品が掲載され、祖国解放戦争とアタトゥルクを統一させるイメージが見られる。アタトゥルクの言葉を引用することによって、彼の反戦的で平和指向的なイメージが国語教科書によって形成されようとしていることが明らかになった。